理化学研究所 環境資源科学研究センター
技術基盤部門
質量分析・顕微鏡解析ユニット

顕微鏡施設

Wide field EM & EM Atlas

広域電顕イメージングと電顕アトラスの構築

光学顕微鏡技術の発展により、組織、細胞、オルガネラ、分子の動態や局在を、広い視野で効率よく観察できるようになりました。一方で、蛍光顕微鏡で観察されるシグナルや動態が、実際にどのような超微細構造に対応しているのかを明らかにするためには、電子顕微鏡による観察が必要です。

しかし、従来の透過電子顕微鏡(TEM)観察では、高い分解能で細胞内構造を観察できる一方で、一度に観察できる範囲が限られていました。そのため、組織全体の中で目的細胞を探すこと、多数の細胞を比較すること、広域の組織構築と細胞内微細構造を同時に把握することには大きな労力が必要でした。

当研究室では、この課題を解決するために、TEM像を広域にわたって自動撮影するシステムと、取得した多数のTEM画像をつなぎ合わせて1枚の高解像度画像として再構成するプログラムを組み合わせた「広域TEM像自動取得システム」を開発しました。本システムにより、植物組織や培養細胞などから数万枚規模のTEM画像を自動取得し、それらを結合することで、ギガピクセルクラスの広域電顕画像を取得することに成功しています。

広域電顕撮像により、細胞内の微細構造を保ったまま、組織全体や多数の細胞を俯瞰的に観察することが可能になります。これにより、特定の組織や細胞の探索、発生段階に応じた細胞構造の比較、オルガネラ分布の解析、植物と微生物の相互作用領域の探索などを、従来よりも効率よく進めることができます。

この広域電顕撮像技術を基盤として、当研究室では「電顕アトラス」の構築にも取り組んできました。電顕アトラスとは、組織や細胞の広い領域を高分解能で撮像し、電算機上で再構築することで、細胞内構造やオルガネラの分布を体系的に解析するための電子顕微鏡画像データです。個々の細胞を高倍率で観察するだけでなく、組織内での位置情報を保ったまま、多数の細胞やオルガネラを比較できる点に特徴があります。

特に植物細胞では、ゴルジ体、分泌小胞、液胞、ER body、小胞体、葉緑体、ミトコンドリアなど、細胞内膜系やオルガネラが細胞分化や環境応答に応じて大きく変化します。これらの動的な単膜系オルガネラの分布や形態変化を網羅的に捉えるためには、できる限り生体に近い状態で構造を保存し、広域にわたって電子顕微鏡観察することが重要です。

そのため当研究室では、試料を瞬時に凍結固定する高圧凍結・凍結置換法を改良・高度化するとともに、広域TEM撮像システムを組み合わせ、構造保存性の高い電顕アトラス作成を進めてきました。タバコ培養細胞、シロイヌナズナ、タバコ組織などを対象に、ゴルジ体、分泌小胞塊、ER bodyなど、細胞内輸送系オルガネラの分布や分化を明らかにするための広域的な微細構造解析を行っています。

また、科研費 新学術領域研究「植物多能性幹細胞」に参画し、シロイヌナズナやイネの茎頂、根端などを対象とした広域電顕アトラスの作成にも取り組みました。植物の幹細胞領域や分化過程にある組織を広域電顕画像として取得することで、組織内の位置情報と細胞内微細構造を結びつけ、植物細胞の分化状態やオルガネラ構成の変化を解析する基盤を構築してきました。

さらに近年では、スライドガラス、カバーガラス、シリコンウェハなどの基板上に載せた大きな樹脂切片を、FE-SEMの反射電子検出器で撮像する切片SEM法を用いて、より効率的な広域電顕像の取得を進めています。切片SEM法では、TEMよりも厚い準超薄切片を用いることができ、光学顕微鏡観察、CLEM、アレイトモグラフィー法との組み合わせにも適しています。

広域電顕画像や電顕アトラスは、画像解析や機械学習との親和性も高いデータです。東京大学の檜垣博士ら、日本女子大学の永田博士らとの共同研究では、取得した広域電顕画像からオルガネラを自動的に認識・分類する画像解析法の開発にも取り組みました。このような電顕画像自動分類法は、従来は専門家が手作業で行っていたオルガネラ検出や形態解析を省力化し、大量の電子顕微鏡画像を定量的に解析するための基盤技術となります。

現在、広域電顕イメージングは、TEM、切片SEM、アレイトモグラフィー、CLEM、断面研磨SEM法などと組み合わせることで、細胞内構造から組織全体、さらには植物・微生物・環境試料の複合界面までをつなぐ解析技術へと発展しています。当研究室では、広域・高分解能・高情報量の電子顕微鏡画像を取得し、画像解析やAI解析と組み合わせることで、生物試料の構造情報をより体系的に理解するための技術開発を進めています。


→ 電顕アトラスの詳細

関連資料

- 豊岡公徳, 佐藤繭子, 朽名夏麿, 永田典子 「高圧凍結技法を取り入れた広域透過電顕像自動取得システムの開発とその応用」 Plant Morphology 26, 3–8.

- 佐藤繭子, 成川-篠崎苗子, 豊岡公徳 「植物と微生物の攻防を電子顕微鏡で捉えるには?」 植物科学の最前線(BSJ-Review)8, 29.

- Higaki et al. Scientific Reports 5, 7794, 2015.

- プレスリリース 「省力・低コストで電子顕微鏡画像からオルガネラを検出する方法を開発」

- 電顕アトラス

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