理化学研究所 環境資源科学研究センター
技術基盤部門
質量分析・顕微鏡解析ユニット

顕微鏡施設

SEM

イオン液体法とDMSO凍結割断・オスミウム浸軟法

走査電子顕微鏡(SEM)では、試料表面の微細構造を高分解能で観察できます。一方で、生物試料は水分を多く含み、導電性が低いため、観察前には固定、脱水、乾燥、導電処理などの前処理が必要になります。通常のSEM試料作製法では、乾燥やコーティングの過程で試料が変形したり、細胞や組織の内部構造が観察しにくかったりする場合があります。

このような課題に対応するため、当研究室では、イオン液体を用いたSEM観察法や、DMSO凍結割断・オスミウム浸軟法など、植物組織や生物試料の構造をより効果的に観察するための試料作製法を検討してきました。これらの方法は、通常のSEM表面観察では捉えにくい含水試料や、細胞・組織内部の表面構造を観察するために有効です。

イオン液体を用いたSEM観察法

イオン液体は、常温で液体として存在する塩の一種です。蒸気圧が極めて低く、真空中でもほとんど蒸発しないという特徴があります。また、導電性を持つため、SEM観察時の帯電を抑える効果も期待できます。

通常、水分を含む生物試料をSEMで観察する場合には、脱水、乾燥、導電コーティングなどの処理が必要です。しかし、乾燥過程では水の表面張力により、柔らかい試料や微細な構造が変形することがあります。イオン液体法では、試料中の水分をイオン液体に置換することで、完全に乾燥させずにSEM観察できる場合があります。そのため、水生生物、柔らかい組織、乾燥による変形を避けたい試料の観察に適しています。

また、イオン液体の導電性を利用して、SEM観察前の導電性付与剤として用いることもできます。金属コーティングを行わずに観察できる場合があり、試料表面を金属膜で覆いたくない場合や、簡便に帯電を抑えたい場合に有効です。ただし、試料の種類や観察条件によっては、表面に残ったイオン液体が微細構造の観察を妨げることもあるため、濃度、処理時間、洗浄条件の最適化が重要です。

基本的な処理例

1. 試料を採取します。試料の状態や観察目的に応じて、エタノール固定、アルデヒド固定、またはオスミウム固定を行います。
2. 試料をイオン交換膜またはろ紙の上に置き、蒸留水で希釈した5%イオン液体を添加します。
3. 3〜4時間放置した後、余分なイオン液体をろ紙で吸い取ります。その後、素早く蒸留水で1〜2回洗浄し、ブロアーなどで表面の余分な液を十分に吹き飛ばします。
4. 試料を完全に乾燥させる必要はなく、そのままSEM試料台に載台して観察できます。試料や観察条件によっては、金属コーティングを行って観察します。

DMSO凍結割断・オスミウム浸軟法

細胞や組織、器官の内部表面構造をSEMで直接観察することは、通常の表面観察だけでは困難です。内部構造を観察するためには、細胞や組織を割断し、観察したい構造を露出させる必要があります。

凍結割断法は、試料を液体窒素などで凍結し、割断することで、細胞や組織の内部構造を露出させる方法です。DMSO凍結割断・オスミウム浸軟法は、凍結割断により露出させた細胞内部を、オスミウム処理と浸軟処理によって観察しやすくするSEM試料作製法です。細胞内小器官、膜系構造、分泌構造、細胞間隙、組織内部の表面構造などを三次元的に観察するために用いられます。

この方法では、試料を固定後、DMSOで凍結保護し、液体窒素中で凍結割断します。その後、オスミウム浸軟処理により可溶性成分やタンパク質成分を一部除去し、膜系や細胞内小器官の表面構造を見やすくします。さらにタンニン酸処理、脱水、乾燥、導電コーティングを行い、SEMで観察します。

DMSO凍結割断・オスミウム浸軟法は、TEM切片では平面的にしか見えない細胞内部の構造を、SEMにより立体的に観察できる点が特徴です。一方で、処理工程が多く、試料によっては構造の抽出や変形が起こる可能性があるため、観察目的に応じた条件設定が必要です。

基本的な処理例

1. 通常のSEM試料作製に従い、グルタルアルデヒドによる前固定と、四酸化オスミウムによる後固定を行います。
2. 緩衝液で洗浄した後、25% DMSO、50% DMSOの順に、それぞれ30分間処理します。
3. 凍結割断装置に液体窒素を入れ、あらかじめ十分に冷却しておきます。
4. 50% DMSO溶液をステージ上に滴下し、直径0.5〜1 cm程度の滴状塊を作ります。凍結する前に試料を入れ込みます。小さく切ったパラフィンフィルムを載せると、目的の位置で割断しやすくなります。
5. 十数秒後、試料を含む滴状塊が凍結したことを確認し、割断したい部位を狙って、片刃カミソリまたは割断専用刃を滴状塊の上に押し当て、ハンマーで軽くたたいて割断します。
6. 割断後、50% DMSO、25% DMSO水溶液、蒸留水の順に、それぞれ30分間ずつ処理して置換します。
7. タンパク質を分解し、内部構造を観察しやすくするため、試料を0.1%オスミウム酸・リン酸緩衝液に入れ、常温で2〜3日処理します。この工程を浸軟処理と呼びます。
8. 試料をリン酸緩衝液で丁寧に洗浄した後、1%タンニン酸・リン酸緩衝液で処理し、再度リン酸緩衝液で洗浄します。
9. SEM観察の常法に従い、脱水、乾燥、載台、導電コーティングを行い、SEMで観察します。

これらの手法の位置づけ

イオン液体法は、乾燥による変形を抑えながら、含水試料や帯電しやすい試料を比較的簡便にSEM観察するための方法です。一方、DMSO凍結割断・オスミウム浸軟法は、細胞や組織の内部表面を露出させ、SEMで立体的に観察するための方法です。

どちらも通常のSEM表面観察を補完する技術であり、試料の性質や観察目的に応じて使い分けることで、植物組織や生物試料の構造をより多面的に解析することができます。当研究室では、従来のSEM試料作製法に加えて、これらの特殊試料作製法を組み合わせることで、観察対象に適したSEM解析条件の最適化を行っています。

関連資料

* 豊岡公徳, 若崎眞由美, 武田紀子, 佐藤繭子 「走査電子顕微鏡を用いた植物組織・細胞の新しい捉え方」 Plant Morphology 32, 3–9, 2020.
* DVD紹介ページ
* SEMによる表面構造解析

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