理化学研究所 環境資源科学研究センター
技術基盤部門
質量分析・顕微鏡解析ユニット

顕微鏡施設


技術開発

私たちは、生物試料の構造や機能を多階層で理解するために、電子顕微鏡、光学顕微鏡、質量分析、画像解析を組み合わせた顕微鏡解析技術の開発に取り組んでいます。

電子顕微鏡は、光学顕微鏡では捉えられない細胞内微細構造や、植物・微生物・環境試料の界面構造をナノメートルスケールで観察できる強力な手法です。一方で、生物試料を電子顕微鏡で観察するためには、固定、脱水、樹脂包埋、切片作製、乾燥、導電処理など、試料に応じた高度な前処理が必要です。また、近年の蛍光イメージング、共焦点レーザー顕微鏡、FE-SEM、反射電子検出器、自動撮像システム、画像解析技術の発展により、光学顕微鏡で得られる分子・細胞情報と、電子顕微鏡で得られる超微細構造情報を統合することが可能になってきました。

当研究室では、古典的な電子顕微鏡試料作製技術を確実に行うだけでなく、植物組織、微生物、根圏、土壌、環境試料など、従来の方法では観察が難しかった試料に対応するための新しい試料作製法と観察法を開発しています。

1. TEMによる細胞内微細構造解析

透過電子顕微鏡(TEM)は、細胞内部の微細構造を高分解能で観察するための基本的な電子顕微鏡法です。試料を固定、脱水、樹脂包埋し、厚さ60〜80 nm程度の超薄切片を作製することで、細胞膜、細胞小器官、細胞壁、分泌構造などをナノメートルスケールで観察できます。

→ TEMによる細胞内微細構造解析

2. SEMによる表面構造解析

走査電子顕微鏡(SEM)は、試料表面の微細構造を高分解能で観察するための代表的な電子顕微鏡法です。電子線を試料表面に照射し、発生する二次電子や反射電子を検出することで、表面の凹凸、形状、構造、組成の違いなどを画像として捉えることができます。
植物表皮、気孔、毛状突起、花粉、菌糸、微生物、培養細胞などの表面構造解析に有効であり、光学顕微鏡では分解能が足りない微細な表面形態を立体的に観察できます。当研究室では、植物組織や生物試料を中心に、固定、脱水、乾燥、載台、導電処理などの条件を試料ごとに最適化し、SEMによる表面構造観察を行っています。
水分を含む生物試料をSEMで観察するためには、通常、化学固定、段階的脱水、t-ブチルアルコール凍結乾燥法や臨界点乾燥法などの乾燥処理を行います。乾燥後の試料は、導電性テープや導電ペーストを用いて試料台に載せ、必要に応じてオスミウム、白金、金、カーボンなどで薄くコーティングします。これにより、電子線照射時に起こる帯電を抑え、安定した観察像を得ることができます。
近年では、低真空SEMや高感度検出器の発展により、非導電性試料や軽度に水分を含む試料を、金属コーティングなしで観察できる場合もあります。また、クライオSEMを用いることで、試料を凍結状態に保ったまま観察し、乾燥による変形を抑えて含水状態に近い表面構造を解析することも可能です。
SEMによる表面構造解析は、電子顕微鏡観察の基本的な技術であると同時に、CLEM、切片SEM、断面研磨SEM、bioCP-SEMなどの発展的な解析法へつながる重要な基盤技術です。

→ SEMによる表面構造解析
→ イオン液体・ODO法

3. 切片SEM・アレイトモグラフィー

切片SEM法は、樹脂包埋試料から作製した準超薄切片を、スライドガラス、カバーガラス、シリコンウェハなどの基板上に載せ、FE-SEMの反射電子検出器で観察する方法です。反射電子像を用いることで、樹脂切片中の細胞内微細構造を、TEM像に近いコントラストで観察できます。
従来のTEMでは、非常に高い分解能で細胞内構造を観察できますが、一度に観察できる範囲は限られます。一方、切片SEM法では、TEMよりも厚い100 nm〜2 µm程度の準超薄切片を用いることができ、比較的広い範囲を効率よく観察できます。これにより、組織全体の中で目的の細胞や構造を探し出し、その位置情報を保ったまま超微細構造を解析することが可能になります。
切片SEM法では、SEM観察前にトルイジンブルーOなどで色素染色し、光学顕微鏡で観察領域を選定した後、同じ切片を電子顕微鏡で観察できます。この特徴により、光学顕微鏡で確認できる組織構造や発生段階、蛍光シグナルなどを手がかりに、目的領域を効率よく電顕観察することができます。CLEM(光-電子相関顕微鏡法)との相性も高く、蛍光像と電子顕微鏡像を対応づける解析にも有効です。
さらに、連続切片を基板上に並べて撮像し、取得した画像を位置合わせすることで、細胞やオルガネラの三次元構造を再構築するアレイトモグラフィー法へ展開できます。アレイトモグラフィー法は、TEMトモグラフィーやFIB-SEMとは異なるスケールで、広い領域にわたる三次元構造情報を取得できる点に特徴があります。
当研究室では、植物組織を対象に切片SEM法を応用し、導管の細胞壁形成、ゼニゴケ杯状体における無性芽形成、シロイヌナズナ根における液胞形成など、従来のTEM観察だけでは解析が難しかった広域・連続的な微細構造解析を行ってきました。また、CLEMとアレイトモグラフィーを組み合わせることで、蛍光を発するオルガネラを電子顕微鏡レベルで特定し、その三次元構造を解析する技術開発も進めています。
切片SEM・アレイトモグラフィーは、TEMの高分解能観察とSEMの広域撮像性をつなぐ技術であり、細胞内微細構造、組織構築、オルガネラ分布、蛍光標識構造の実体解析に有効な方法です。

→ 切片SEM・アレイトモグラフィー

4. 高圧凍結・凍結置換法

高圧凍結法は、試料を高圧下で急速に凍結することで、細胞内の水を氷晶化させず、できる限り生体に近い状態で構造を保存する試料固定法です。化学固定では変化しやすい膜構造、分泌小胞、液胞、オルガネラ接触部位などを良好に保存できるため、植物細胞や生物試料の微細構造解析に有効です。
凍結後の試料は、低温下で水を有機溶媒へ置換する凍結置換法を行い、樹脂包埋、薄切、TEM観察、切片SEM観察などへ展開します。当研究室では、植物組織、培養細胞、藻類、微生物を含む試料などを対象に、高圧凍結・凍結置換法を用いた電子顕微鏡解析を行っています。

→ 高圧凍結・凍結置換法

5. 免疫電子顕微鏡法

免疫電子顕微鏡法は、抗原抗体反応を利用して、目的タンパク質や特定分子の局在を電子顕微鏡下で検出する方法です。金コロイド標識抗体などを用いることで、目的分子が細胞内のどの構造に存在するのかを、ナノメートルスケールで解析できます。
蛍光顕微鏡による分子局在解析が発展した現在でも、免疫電顕法は、タンパク質の局在を細胞膜、細胞小器官、輸送小胞、液胞、細胞壁などの超微細構造上で直接示すための重要な技術です。当研究室では、植物細胞内タンパク質の局在解析を中心に、さまざまな共同研究で免疫電顕法を応用してきました。

→ 免疫電子顕微鏡法による分子局在解析

6. 光-電子相関顕微鏡法(CLEM)の開発

蛍光イメージングの発展により、蛍光タンパク質や蛍光プローブを用いて、細胞内の分子やオルガネラの動態を観察できるようになりました。一方で、蛍光シグナルが実際にどのような超微細構造に対応しているのかを明らかにするためには、電子顕微鏡による観察が必要です。
光-電子相関顕微鏡法(CLEM)は、同一試料・同一領域を光学顕微鏡と電子顕微鏡の両方で観察し、蛍光像と電子顕微鏡像を対応づける解析法です。当研究室では、日立ハイテクと共同でCLEMシステム「MirrorCLEM」の開発に携わるとともに、樹脂包埋切片中の蛍光シグナルを利用したCLEM試料調製法や、切片SEM・アレイトモグラフィーと組み合わせた3D-CLEM解析の技術開発を進めています。

→ 光-電子相関顕微鏡法(CLEM)の開発

7. bioCP-SEMによる広域断面イメージング

bioCP-SEM(biological cross-sectional polishing scanning electron microscopy)は、生物試料用の固定・樹脂包埋技術と、断面研磨技術を組み合わせた新しいSEM観察法です。植物根、微生物、菌類、土壌鉱物、有機物などが複雑に入り混じる試料を、位置関係を保ったまま広域かつ高分解能に観察するために開発しました。
bioCP-SEMでは、植物根や土壌、微生物を含む試料を固定・樹脂包埋した後、ダイヤモンドバンドソーで切断し、自動研磨装置で断面を平滑に研磨します。その研磨断面をSEMの反射電子検出器で観察することで、植物組織、微生物集団、バイオフィルム様構造、菌糸ネットワーク、土壌粒子などを同一空間上で可視化できます。
この技術により、従来の電子顕微鏡観察では捉えにくかった、植物・微生物・土壌が形成する複雑な界面を、広域の構造情報として解析できるようになりました。根圏、土壌団粒、バイオフィルム、菌類、地衣類、コケ植物、環境試料など、多様な生物・環境試料への応用が期待されます。

→ bioCP-SEMによる広域断面イメージング

8. 広域電顕イメージングと電顕アトラス

従来のTEM観察では、高分解能で細胞内構造を観察できる一方で、一度に観察できる範囲は限られていました。当研究室では、TEM像を広域にわたって自動撮影するシステムと、取得した多数の画像を結合して1枚の高解像度画像として再構成するプログラムを組み合わせた、広域TEM像自動取得システムを開発しました。
この技術により、植物組織や培養細胞などから数万枚規模のTEM画像を自動取得し、ギガピクセルクラスの広域電顕画像を作成することが可能になりました。さらに、高圧凍結・凍結置換法と組み合わせることで、構造保存性の高い電顕アトラスの構築にも取り組んでいます。
電顕アトラスは、組織内の位置情報を保ったまま、多数の細胞やオルガネラの分布を体系的に解析するための電子顕微鏡画像データです。現在は、TEM、切片SEM、CLEM、アレイトモグラフィー、画像解析、AI解析と組み合わせ、細胞内構造から組織全体までをつなぐ広域電顕イメージング技術として発展しています。

→ 広域電顕イメージングと電顕アトラス

9. 光学顕微鏡観察法の開発

光学顕微鏡は、組織や細胞の形態を広い視野で観察するための基本的な顕微鏡法です。生物顕微鏡、実体顕微鏡、金属顕微鏡、蛍光顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡など、目的に応じてさまざまな装置が用いられます。
当研究室では、主に植物試料を対象に、光学顕微鏡観察のための染色法、切片作製法、透明化法、凍結切片作製法、蛍光観察法などの技術検討を行っています。これらの技術は、単独で組織や細胞の形態を解析するだけでなく、電子顕微鏡観察に先立つ観察領域の選定、CLEM、レーザーマイクロダイセクション、質量イメージングなどの前処理技術としても重要です。

→ 光学顕微鏡観察法の開発


10.. 凍結切片作製と質量イメージング

植物組織に含まれる代謝物や低分子化合物は、組織や細胞の種類、発生段階、環境応答に応じて不均一に分布しています。そのため、どの化合物が、どの組織・細胞に、どのように蓄積しているのかを空間情報とともに解析することが重要です。

当研究室では、高性能クライオスタットを用いて植物試料の凍結切片作製条件を検討し、レーザーマイクロダイセクションや質量イメージングへの応用を進めてきました。質量イメージングでは、組織切片上の各位置から質量分析データを取得し、低分子代謝物、二次代謝産物、脂質、薬用成分などの分布を画像として可視化できます。

凍結切片作製、顕微鏡観察、レーザーマイクロダイセクション、質量イメージングを組み合わせることで、植物組織における分子分布を空間的に解析する技術開発を進めています。

→ 凍結切片作製と質量イメージング




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