理化学研究所 環境資源科学研究センター
技術基盤部門
質量分析・顕微鏡解析ユニット

顕微鏡施設

High pressure freezing method

高圧凍結・凍結置換法


電子顕微鏡で細胞内構造を観察するためには、試料をできるだけ生体に近い状態で固定することが重要です。一般的な化学固定では、固定液が組織内へ浸透し、タンパク質や脂質を化学的に安定化するまでに時間がかかります。その過程で、膜構造の変形、細胞内成分の移動、抽出、収縮などのアーティファクトが生じることがあります。そのため、化学固定による電顕像は必ずしも生体内の瞬間的な状態を完全に反映しているとは限りません。

高圧凍結法(high-pressure freezing; HPF)は、試料を高圧下で急速に凍結することで、細胞内の水を氷晶化させず、ガラス状に固化させる凍結固定法です。生物試料の多くは水分を多く含んでいるため、常圧で急速冷却すると氷晶が形成され、細胞膜や細胞小器官が損傷します。一方、高圧条件下では水の氷晶形成が抑えられ、比較的厚みのある試料でも、細胞内構造を良好に保存した状態で凍結固定することができます。一般に、数十〜200 µm程度の厚さの生物試料を良好に凍結できるとされており、植物組織のように細胞が大きく、細胞壁や液胞を持つ試料にも有効です。

高圧凍結法の大きな利点は、固定液の浸透を待たずに、細胞内構造を短時間で固定できることです。膜系、分泌小胞、液胞、オルガネラ接触部位、細胞骨格、細胞壁近傍の構造など、化学固定では変化しやすい構造の保存に優れています。また、化学固定が難しい厚みのある組織や、細胞内イベントをできるだけ瞬間的に捉えたい場合にも有効です。

一方で、高圧凍結法にはいくつかの制約もあります。凍結できる試料の厚さには限界があり、試料の大きさや含水量、空隙の有無、組織の硬さによって凍結品質が変わります。また、高圧凍結装置や専用キャリアが必要であり、試料の切り出し、キャリアへの充填、凍結後の取り扱いにも熟練を要します。植物試料では、細胞壁、液胞、空気を含む組織、硬い組織などが凍結品質に影響するため、試料ごとの条件検討が重要です。

高圧凍結した試料を室温でTEMや切片SEM観察に用いる場合には、一般的に凍結置換法を行います。凍結置換法では、アセトンなどの有機溶媒に四酸化オスミウムや酢酸ウラニルなどの固定・染色成分を溶かした置換液を用い、氷晶の再形成が起こりにくい低温条件下で、試料中の水を有機溶媒へ置換します。その後、段階的に温度を上げ、樹脂を浸透させて包埋します。樹脂包埋後は、超薄切片を作製してTEMで観察するほか、準超薄切片を用いた切片SEM法やアレイトモグラフィー法にも展開できます。

当研究室では、長年にわたりLeica EM-PACTを用いて高圧凍結・凍結置換法の技術検討を進め、2017年度にLeica EM ICEを導入しました。現在は、植物組織、培養細胞、藻類、微生物を含む試料などを対象に、高圧凍結・凍結置換法による電子顕微鏡解析を行っています。Leica EM ICEでは、光刺激や電気刺激と組み合わせて試料を急速凍結することも可能であり、細胞内で起こる動的な現象を電子顕微鏡レベルで捉える技術としても期待されています。

高圧凍結・凍結置換法は、化学固定では保存が難しい微細構造をより自然に近い状態で観察するための重要な試料作製技術です。当研究室では、TEM、切片SEM、CLEM、アレイトモグラフィーなどと組み合わせることで、植物細胞や生物試料の微細構造を多角的に解析しています。

## 関連資料

- 佐藤繭子, 若崎眞由美, 後藤友美, 豊岡公徳 「高圧凍結法を用いた植物の電子顕微鏡解析」 PLANT MORPHOLOGY 31(1), 25–29, 2019.

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