理化学研究所 環境資源科学研究センター
技術基盤部門
質量分析・顕微鏡解析ユニット

顕微鏡施設

bioCP-SEM

bioCP-SEMによる生物試料の広域断面イメージング

根圏は、植物の根、微生物、菌類、土壌鉱物、有機物、水分などが複雑に入り混じる環境界面です。この領域では、植物と微生物の相互作用、バイオフィルム形成、菌糸ネットワーク、土壌粒子との接触など、植物の成長や環境応答に関わる重要な現象が起こっています。しかし、根圏のように生物成分と鉱物成分が混在する試料では、構成要素の硬さ、密度、含水量、樹脂浸透性が大きく異なるため、広い範囲を高分解能で観察することは容易ではありませんでした。

当研究室では、このような複雑な生物・環境試料を、位置関係を保ったまま広域かつ高分解能に観察するために、bioCP-SEM(biological cross-sectional polishing scanning electron microscopy)を開発しました。bioCP-SEMは、生物試料用の固定・樹脂包埋技術と、材料科学分野で用いられてきた断面研磨技術を組み合わせた、新しい断面SEM観察法です。

bioCP-SEMでは、植物根や土壌、微生物を含む試料を固定し、低粘度樹脂などで包埋した後、ダイヤモンドバンドソーで試料ブロックを切断します。その後、自動研磨装置を用いて切断面を平滑に研磨し、必要に応じて導電処理を行います。作製した研磨断面を走査電子顕微鏡(SEM)の反射電子(backscattered electron; BSE)検出器で観察することで、広い断面全体を俯瞰しながら、細胞壁、細胞内構造、微生物、菌糸、バイオフィルム様構造、土壌鉱物などを同一空間上で観察することができます。

従来のTEMや切片SEMでは、高分解能な観察が可能である一方、土壌を含む大きく不均一な試料を、広い範囲で連続的に観察することには制約がありました。また、土壌粒子や根、微生物を分離して観察すると、本来の位置関係が失われてしまいます。bioCP-SEMでは、樹脂包埋した試料の断面を研磨して観察するため、根、微生物、菌糸、鉱物粒子、有機物の空間配置を保ったまま、ミリメートルからセンチメートルスケールの広い領域を観察できます。

この方法により、実験室で育成した植物試料だけでなく、野外で採取した根圏を含む土壌試料についても、植物組織、微生物集団、バイオフィルム様構造、菌糸ネットワーク、原生生物に似た構造、土壌粒子などを、相互の位置関係を保ったまま可視化することが可能になりました。特に、植物根の表面や細胞間隙に存在する微生物集合体、根と土壌粒子の界面、菌糸が土壌中に広がる様子などを、広域の構造情報として捉えられる点が大きな特徴です。

bioCP-SEMは、根圏だけでなく、植物と微生物の相互作用、土壌団粒、バイオフィルム、菌類、地衣類、コケ植物、環境試料、動植物組織と微生物の界面など、多様な生物・環境試料への応用が期待されます。従来の電子顕微鏡観察では見えにくかった「異なる成分が接する境界」を、広域の構造情報として可視化できるため、環境資源科学、植物科学、微生物生態学、土壌科学、共生研究などの分野で有用な解析基盤となります。

一方で、bioCP-SEMは形態情報に基づく観察法であり、観察された微生物や構造の分類群、化学組成、機能を単独で同定することには限界があります。そのため、蛍光顕微鏡、CLEM、元素分析、質量分析、DNA解析、AI画像解析などの手法と組み合わせることで、構造情報と分子・化学・系統情報を結びつける展開が重要になります。

当研究室では、bioCP-SEMを、広域電顕イメージング、CLEM、切片SEM、レーザーマイクロダイセクション、質量イメージング、画像解析技術と組み合わせることで、植物・微生物・土壌が形成する複雑な界面を多角的に解析する技術開発を進めています。bioCP-SEMは、これまで分離して解析されることが多かった植物、微生物、土壌鉱物を、同じ空間の中で構造的に捉えるための新しい電子顕微鏡技術です。

応用例

根圏における植物・微生物・土壌界面の可視化

bioCP-SEMを用いることで、根の周囲に存在する微生物集団、バイオフィルム様構造、菌糸ネットワーク、土壌鉱物を、植物組織との位置関係を保ったまま観察できます。従来の観察法では、根や土壌粒子を分離する過程で失われやすかった空間情報を保持できるため、根圏の構造的理解に有効です。


### 野外試料への応用

野外で採取した根圏を含む土壌試料では、植物根、微生物、菌類、土壌粒子、有機物が複雑に入り混じっています。bioCP-SEMでは、これらの構造を一体として樹脂包埋し、断面研磨することで、自然に近い位置関係を保った広域断面像を取得できます。これにより、実験室条件だけでなく、環境中の植物・微生物・土壌界面を構造的に解析することが可能になります。


### バイオフィルム・菌糸ネットワークの観察

bioCP-SEMでは、根表面や土壌粒子周辺に形成される微生物集団やバイオフィルム様構造、菌糸ネットワークを広域に観察できます。微生物がどのような場所に集まり、土壌粒子や植物組織とどのように接しているかを、電子顕微鏡レベルで可視化できます。


### 複合環境試料への展開

bioCP-SEMは、根圏試料に限らず、地衣類、コケ群落、菌類、微生物マット、動植物組織と微生物の界面など、異なる性質を持つ成分が混在する複合試料への応用が期待されます。硬い鉱物成分と柔らかい生物成分を同じ断面上で観察できるため、生物と環境の境界領域を解析するための有効な手法です。

関連資料

- Toyooka K, Saito Y, Kojima S, Goto Y, Sato M.
“Biological cross-sectional polishing scanning electron microscopy enables wide-area ultrastructural mapping of intact plant–microbe–soil interfaces.”
Communications Earth & Environment, 2026.

- 理化学研究所 プレスリリース
bioCP-SEMによる根圏イメージングに関する発表, 2026.

- Behind the Paper
Seeing the hidden architecture of environmental interfaces by bioCP-SEM.”

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