根端ERボディ
植物の根端は根冠と側部根冠に覆われ、硬い鉱物や微生物から根端の分裂組織を保護しながら土壌の中に伸長します。我々は、シロイヌナズナ芽生えの根端全体の広域電顕像から、側部根冠領域に小胞体が膨らんだ ER ボディと呼ばれる紡錘形の構造体が恒常的に存在することを見出し、その形態と機能を解析しました。連続断面走査電顕法による根端3次元解析を行なった結果、側部根冠細胞内に多数の紡錘形の ER ボディ様構造体が確認されました。小胞体残留シグナルを持つ GFP 発現形質転換シロイヌナズナ(GFPh 株)の根端を蛍光観察した結果、側部根冠領域にドット状構造が多く観られ、光-電子相関顕微鏡解析法(CLEM)により、その蛍光ドットは ER ボディであることがわかりました。高圧凍結技法(HPF)を取り入れた電顕観察により、ER ボディと液胞が融合し ている像が多数観察されました。さらに抗 GFP 抗体を用いた GFPh 株の免疫電顕解析から GFP は、ER ボディと液 胞が融合した GFP が液胞内に局在したことから、ER ボディは小胞体から液胞への物質輸送に関与していることが推定されました。
葉において ER ボディに含まれる主要酵素は、小胞体残留シグナルを持つβ-グルコシダー ゼ(PYK10)であることが明らかになっています。この PYK10 に赤色蛍光タンパク質 TagRFP でラベルした形質転換シロイヌナズナを用いて、その根端を高圧凍結技法と CLEM 法を組み合わせて解析した。その結果、 PYK10-TagRFP は側部根冠内層および中層細胞の ER ボディに存在し、側部根冠の中層から最外層の細胞にか けて ER ボディと液胞が高頻度で接触し、液胞内にPYK10-TagRFP が流入していることがわかりました。PYK10 はゴルジ体やその他の細胞小器官には局在しないことから、側部根冠のER ボディは PYK10 を小胞体からゴルジ体を経由せずに、直接液胞へ輸送していることが分かりました。
→Kiminori Toyooka, Yumi Goto, Kei Hashimoto, Mayumi Wakazaki, Mayuko Sato, and Masami Yokota Hirai, "Endoplasmic Reticulum Bodies in the Lateral Root Cap are Involved in the Direct Transport of Beta-Glucosidase to Vacuoles", Plant & Cell Physiology, 10.1093/pcp/pcac177 プレスリリース