開発技術

切片SEM観察法

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近年、走査電顕(SEM)の電子銃や検出器などの技術革新により、 スライドガラスやシリコンウェハなどの上に載せた樹脂切片を、反射電子検出器を用いて撮像することで、透過電顕法(TEM)と遜色ない切片の電顕像を撮影できるようにな離ました。この切片をSEMで反射電子検出する観察法、略して“切片SEM法” により、TEMよりも厚い樹脂切片を用いて、広域の電顕像を容易に得ることができます。初めにTEM試料と同様に固定・脱水・樹脂包埋した試料から, ウルトラミクロトームと光顕用ダイヤモンドナイフを使って厚さ100nm〜2 µmの準超薄切片を作製し、スライドガラスやカバーガラスに載せます。その後、電子染色と導電コーティングを行い、FE-SEMのBSE検出器で撮像します。SEM観察前に色素染色して光顕で観察することも可能です。さらに連続切片を載せたスライドガラスやシリコンウェハの同一箇所を撮影し、立体再構築することもできます(アレイトモグラフィー法)。

これまで切片SEM法による解析で様々な現象を明らかにしてきました。

・シロイヌナズナ導管の細胞壁形成(遺伝研 小田研究室との共同研究)
 植物の導管に存在する壁孔は水を通す役割を持ちます。この壁孔周辺の厚い細胞壁形成に関わる分子を解明する際に、壁孔を計測する必要性がありました。 しかしこの壁孔が存在する箇所は、共焦点レーザー顕微鏡で観察すると簡単に観察できますが、電顕で観察するためには、超薄切片にした後その存在箇所を探し出すのは困難で、TEM観察ではとても厳しいです。そこで、切片SEM法を応用し、光顕で観察部位をある程度特定してからFE-SEMにより観察しました。具体的には、500nm厚の連続切片を作製し、スライドガラスに並べトルイジンブルーO染色により、導管組織で壁穴が観察される箇所を光顕により選び出し、FE-SEMで壁孔を撮影、穴の直径を計測することで野生型と変異体の大きさや形態を超微細レベルで明らかにしました。
Sugiyama et al (2019) Nature Communication 10, 468. プレスリリース

・ゼニゴケ杯状体における無性芽形成(神戸大 石崎研究室との共同研究)
 コケ植物ゼニゴケは栄養繁殖で増える際、杯状体と呼ばれるカップ状構造の中に自らのクローンである無性芽を多数作ります。この杯状体における無性芽形成過程の微細構造を電顕で捉えるために、直径およそ2mmと大きな杯状体の準超薄連続切片を作製し、無性芽が分裂して成長する箇所とその過程を電顕で捉えました。この観察もこれまでのTEM観察では難しかった広域観察が切片SEM法で可能となりました。
Hiwatashi et al (2019). Current biology  プレスリリース

・シロイヌナズナ根の液胞形成機構(香港中文大 Jiangラボとの共同研究)
 高圧凍結/凍結置換法により調製したシロイヌナズナ根端組織の連続切片を丸型カバーガラスに載せ、FE-SEMのYAG-BSE検出器で皮層の発達初期・中期・後期にあたる細胞を連続切片撮影し、3次元再構築ソフトを用いて液胞の形態を3次元再構築しました。この結果と連続切片TEMトモグラフィー法のデータを合わせ、小さな液胞が融合することで大きな液胞を形成することを明らかにしました。
Cui et al (2018) Nature Plants プレスリリース

豊岡公徳, 若崎眞由美, 宮彩子, 佐藤繭子 切片SEM観察法の植物試料への応用 顕微鏡 55(1) 7-12

武田-神谷 紀子, 後藤 友美, 佐藤 繭子, 豊岡 公徳「光-電子相関顕微鏡法とアレイトモグラフィー法を組み合わせて蛍光を放つオルガネラを電顕で捉える」Plant Morphology vol.34, pp.15-23

→植物試料の走査電顕試料作製法プロトコル PDF

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